これまで退職金や所得税・住民税の手続きについてお伝えしましたが、今回からは退職後の手続きの中でも複雑な社会保険の手続きについてお伝えしていきます。今回は健康保険の手続きについてお伝えすることとします。
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社会保険ってそもそも何?
社会保険の種類
日本の社会保険制度には以下の5種類があります。
社会保険の種類
- 医療保険
- 年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
1.医療保険
健康保険、船員保険、共済組合、国民健康保険等があり、ケガ、病気等のときに保障する保険制度で国が一部を負担してくれます。
健康保険:企業で働く従業員等が対象。
船員保険:船員が対象。
共済組合:公務員および私立学校教職員が対象。
国民健康保険:自営業者等、上記の保険に加入していない人が対象。
後期高齢者医療制度:75歳になると国民健康保険を脱退しこちらの加入者となります。

2.年金保険
公的年金制度には国民年金、厚生年金、共済年金があります。
国民年金:20歳以上60歳未満のすべての国民が対象。
厚生年金:厚生年金保険の加入対象となる会社等で働く人が対象。
共済年金:国家公務員、地方公務員や私立学校の教員などとして常時勤務する人が対象。
3.介護保険
65 歳以上の方(第1号被保険者)、40 歳から 64 歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)が対象。
65 歳以上の方は、原因を問わずに要介護認定または要支援認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。
40 歳から 64 歳までの医療保険加入者は、第2号被保険者は、加齢に伴う疾病(特定疾病)が原因で要介護(要支援)認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。
4.雇用保険
労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかることを目的とした保険制度です。

5.労災保険
通勤中や労働中に発生するケガや病気に対する治療費や賃金を補償する制度です。
健康保険の退職時に必要な手続きについて

手続き方法は退職時のご自身の状況で変わります。
注意ポイント
健康保険は何かしらの健康保険に加入しておかないと、病気やケガをした際の治療費を全額自己負担することになりますので、必ず手続きしておきましょう!!
退職後の翌日からすぐに再就職先で働く場合
再就職先で健康保険の切り替え手続きをするだけでOKです。また、保険料もこれまで通りです。
退職後、1日でも働かない期間が発生する場合
以下の3つのいずれかに加入する必要があります。
1.任意継続健康保険に加入する場合
制度の概要
健康保険の被保険者が、退職した後も引き続き最大2年間、退職前に加入していた健康保険の被保険者になることができる制度で、制度を利用するには条件があります。
注意ポイント
健康保険料(と厚生年金保険料)は、退職するまでは会社が半分負担してくれていましたが、退職すると全て自己負担となります。
加入条件
・退職日までに継続して2か月以上被保険者であったこと
資格喪失条件
以下の条件でこの制度の資格を喪失します。
・任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過した。
・死亡した。
・保険料を納付期日までに納付しなかった。
・被用者保険、船員保険又は後期高齢者医療の被保険者等となった。
保険料
退職時の標準報酬月額にお住まいの都道府県の保険料率(40歳以上65歳未満の方は、介護保険料率が含まれます。)を乗じた額が保険料となります。
ただし、保険料には上限があり、退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合は、30万円の標準報酬月額により算出した保険料となります。
基本2年間固定額となりますが、期間中に40歳となる場合や保険料率が異なる都道府県に転出した場合等に保険料が変わります。
報酬の範囲
基本給、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるもの。年4回以上の支給される賞与についても含まれます。
任意継続のメリット
①退職前の標準報酬月額が30万円以上あった場合は、保険料が安くなる。
40歳未満で標準報酬月額が50万円あった場合、東京都では健康保険料の月額は49,350円となりますが、30万円上限ですので29,610円となり、月額で19,740円お得になります。
②収入が130万円未満で、かつ、被保険者の年収の1/2倍未満の家族を扶養に入れることが出来るため、一人分の保険料で済みます。
任意継続のデメリット
①2年間は必ず支払う必要がある。
注意ポイント
任意継続は、期間中に再就職する以外の国民健康保険への加入やご家族の扶養に入るという事由で、辞めることが出来ませんのでご注意下さい。
②2年間しか継続出来ない。
2年後以降は、他の国民健康保険に入る必要があり、扶養者がいる場合は扶養者に入ることが出来なくなります。
手続きの方法
「任意継続被保険者資格取得申出書」を、お住まいの住所地を管轄する協会けんぽ支部に退職日の翌日から20日以内に提出します。
「任意継続被保険者資格取得申出書」は全国健康保険協会(協会けんぽ)のホームページからダウンロード出来ます。
添付する書類は以下の通りです。
マイナンバーカード(個人番号カード)をお持ちの場合
マイナンバーカードの表面・裏面の両方のコピー
マイナンバーカードをお持ちでない場合
①番号確認書類
個人番号の通知カードのコピー(記載情報と現況に相違のないもの)
住民票(マイナンバーの記載のあるもの)
住民票記載事項証明書(マイナンバーの記載のあるもの)
の内のどれか一つと
②身元確認書類
運転免許証のコピー
パスポートのコピー
その他官公署が発行する写真つき身分証明書のコピー
の内のどれか一つ
共通部分
被保険者証の記号と番号
退職日が確認できる書類(任意かつ、いずれか)
退職証明書写し、雇用保険被保険者証離職票写し、健康保険被保険者資格喪失届写し等
被扶養者現況申立書(海外に在住し日本国内に住所を有しない被扶養者用)
海外に在住している家族を被扶養者にするときに申請します。
手続きの期限
2.国民健康保険に加入する場合
制度の概要
国民健康保険とは、都道府県及び市町村が保険者となって運営する公的な医療保険制度で、国、都道府県、市町村が税等を拠出して医療費を負担してくれます。
加入の条件
他の医療保険に加入していないこと、生活保護を受けていないこと等。
保険料
お住まいの自治体により異なります。また、40歳以上65歳未満の方は、介護保険第2号被保険者となり、介護分保険料が上乗せとなります。
世帯の合計所得が一定の基準以下の場合に、均等割額及び平等割額の7割、5割、2割を軽減出来ます。ただし、世帯内に1人でも所得の未申告の方がいる場合は、軽減されませんのでご注意下さい。

2020年9月現在、一世帯当たりの最大年間保険料は、40歳未満で82万円、40歳以上65歳未満で99万円となるようです。
前年の収入が0円だったとして7割軽減を受けても、東京都特別区を例にすると、独身一人暮らしの場合でも、40歳未満で年間199,080円、40歳以上65歳未満で246,240円支払う必要があります。


手続きの方法
お住まいの市町村役所・役場にて手続きをします。
必要なもの
- 印鑑
- 健康保険をやめた証明書:健康保険資格喪失証明書、離職票(ハローワークに提出する前に)、退職証明書等
- 本人確認ができるもの:運転免許証、パスポート等
- 個人番号のわかるもの:マイナンバーカード、通知カード等
手続きの期限
3.ご家族の健康保険に入る場合
退職した翌日からの年収が130万円未満(月額10,8334円未満)でかつご家族(被保険者)の年収の1/2倍未満なら、そのご家族の扶養に入ることが出来る可能性があります。その他の被扶養者の認定基準を満たす必要がありますが、扶養に入ることが出来れば、ご自身の社会保険料を支払う必要がなくなります。
被扶養者の条件
- 主として被保険者により生計が維持されていること。
- 健康保険法で定められた親族の範囲内(被保険者の3 親等内)の親族であること。(※)
- 原則、日本国内に住所(住民票)を有していること。
- 被保険者には認定対象者を継続的に養う経済的扶養能力があること。
- 認定対象者に収入がある場合は、一定の収入要件を満たしていること。
- 被保険者の他に扶養義務者の順位が高い者が存在する場合、他の扶養義務者より被保険者の生計維持程度が高いこと。
- 後期高齢者に該当していないこと。
※)親族の範囲内でも、以下の条件があります。
同一世帯に属していなくてもよい人:配偶者(内縁関係を含む)、子(養子を含む)、孫、兄、姉、弟、妹、父母(養父母を含む)等の直系尊属
同一世帯に属していなくてもよい人:被保険者の配偶者(内縁関係を含む)の父母、連れ子、被保険者の配偶者(内縁関係を含む)死亡後のその父母、連れ子
保険料
扶養に入ることが出来れば、ご自身の社会保険料を支払う必要がなくなります。
但し、雇用保険にて失業給付を受ける場合は、受給期間は扶養の要件から外れる場合もあります。扶養から外れる場合は、受給期間中は一旦、国民健康保険に入る等の必要があります。
3つの方法の内、最も出費を抑えることが出来ます。
手続きの方法
被保険者の会社に必要書類を提出し手続きをしてもらいます。
必要なもの
ご自身が用意するもの
収入が確認できる書類:退職証明書、離職票等
ご家族が用意するもの
- 続柄が確認できる書類:被保険者世帯全員の記載がある住民票の原本や戸籍謄本の原本
- 被扶養者(異動)届
手続きの期限
退職日の翌日から5日以内です。
期間が短いので、退職前から揃えておくことが出来る必要書類を揃えておいたり、ご家族の会社にも手続き準備を進めて貰うようにしておきましょう。
まとめ
まとめ
- 再就職をすぐにするなら再就職先で手続きする。
- 退職後、再就職等までの期間がしばらくかかる場合は、任意継続、国民健康保険、扶養に入るのいずれかを選択する。
- それぞれの手続きには期限があり、期限が短い順から扶養➡国民健康保険➡任意継続となっている。
- 再就職や起業までの期間等によって3つの方法でどの方法がベストかが変わる。
ご紹介した手続きは、ご自身の状況等によってどの方法がベストかが変わってきます。退職前に十分検討し、損しない最良の方法をチョイス出来るようにしておきましょう。
以上、健康保険の手続きについてでした。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。